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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)7414号 判決

原告 有田正夫

右代理人弁護士 岡田実五郎

同 佐々木熙

被告 神田飲食企業組合

右代表者 川口秀雄

右代理人弁護士 大島正恒

主文

被告組合の昭和三一年四月五日開催の臨時組合総会における別紙目録記載の各決議が無効であることを確認する。

原告の理事会決議の無効確認を求める訴はこれを却下する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

先ず、組合総会の決議が存在しないことを理由とする決議無効確認の訴が許されるか否について判断すると、組合総会の決議については中小企業等協同組合法第五四条によつて商法第二五二条が準用されるから、組合総会において成立した決議の内容が法令又は定款に違反する場合に、これを理由として決議無効確認の請求をなすことができることは明かである。

而して、組合総会の決議が不存在なるが故に、その決議と称するものの法律効果が発生していない場合と、決議が成立したけれども、その内容が法令又は定款に違反する為その法律効果が発生しない場合(商法第二五二条)とは、その理由において異るけれども決議の法律効果が発生していないことは両者同一であり、決議が不存在とはいえ、決議と称するものについて議事録が作成され、或は決議事項について登記により公示されていて第三者をして真実決議があつたものとの誤信を抱かせるような危険がある場合には、問題の決議の法律効果の不発生について画一的確定を図る必要があることは商法第二五二条の場合と何ら異るところはないから、いわゆる決議不存在の場合にも同条の規定を準用して、成立したとせられる総会決議の法律効果の発生しないことの確認を求めることができるものと解すべきである。

よつて組合総会の決議について判断すると、被告組合が昭和二五年五月三一日設立された中小企業等協同組合法による組合であること、原告が昭和二六年九月二八日被告組合の理事長(代表理事)に選任されたこと、被告組合が昭和三一年四月五日午前一一時東京都千代田区神田旭町一四番地舟出旅館において臨時組合総会を開催し別紙目録記載の決議をなしたとしてその旨の議事録を作成し、右決議の趣旨の理事監事の変更登記を了したことは当事者間に争がなく、原本の存在及びその成立に争がない甲第二号証の二、三、証人実川吉男の証言及び被告組合代表者川口秀雄尋問の結果を綜合すれば、被告組合においては川口秀雄が専務理事たる資格において組合総会招集の通知をなした上、昭和三一年四月五日午前一一時前記舟出旅館において臨時組合総会を開催し、別紙目録記載の決議をなしたことを認めることができ、右認定を動かすに足る証拠はない。

ところで組合総会の招集権者については、中小企業等協同組合法に各理事が招集する旨の規定がないから理事は本来組合総会招集の権限を有するものではなく、同法第四七条、同法第五四条によつて準用する商法第二三一条によれば、組合総会の招集は理事会の決するところであつて、業務執行の一場合に外ならないから、原則として代表理事がその権限を有するものと解すべきである。

被告は、被告組合の定款第一九条に「一、理事長は本組合を代表し本組合の事務を総理する。二、専務理事は理事長を補佐して本組合の事務を執行し理事長事故あるときは、その職務を代行する。三、理事長及び専務理事事故あるときは理事の互選によりその代理者一人を定める。」と規定されているところ、理事長たる原告が組合の業務を執行せず総会の招集もしないので、定款第一九条第二項にいわゆる「理事長事故あるとき」にあたるとして専務理事川口秀雄が理事長の職務を代行し右総会を招集したと主張し、定款第一九条に被告主張の如く規定されていることは当事者間に争がなく、川口秀雄が当時専務理事の資格をもつていたことは被告組合代表者川口秀雄尋問の結果により認められる(証人金関力也の証言中右認定に反する部分は信用できない。)けれども、理事会において本件組合総会の招集を決定したのに拘らず原告がこれを招集しなかつたことはもとより、原告に被告組合の業務を執行し得ないような事情があつたことはこれを認むるに足る証拠がないから、川口秀雄に理事長の職務を代行して右組合総会を招集する権限はなかつたという外なく、従つて右組合総会は本来総会を招集する権限を有する機関が定款の規定に違反して総会を招集した如き単に招集手続が定款に違反した場合と異り、全然招集権限を有しない者の招集に係るものであるから法律上これを組合総会と認めることはできず、右総会における別紙目録記載の各決議はその法律効果を発生しないといわざるを得ない。

次に原告は理事会における決議の無効確認を求めるけれども、理事会の決議についてはこれによつて生じたとみられる現在の権利又は法律関係の不存在の確認を求めるは格別、これが無効確認の訴を許容する規定はないから、理事会決議の無効確認を求める原告の訴は事実の存在につき判断する迄もなく不適法としてこれを却下すべきである。

よつて、原告の本訴請求中、前記臨時組合総会における別紙目録記載の各決議の無効確認を求める請求は理由があるからこれを認容し、理事会決議の無効確認を求める訴はこれを却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第九五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡部行男 裁判官 伊藤和男 太田昭雄)

〈以下省略〉

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